#1 オープンマイクとピアノマン
5月3日、叶うカフェが場所をお借りしている水車小屋で、ずいぶん久しぶりに「オープンマイク」が開催されました。
ひとり持ち時間15分で、ギターにウクレレ、バンドにアカペラなんでもござれ。以前は紙芝居とか、音楽に限らずいろんなパフォーマーさんがいらしてたみたい。

第29回となったこのオープンマイク。僕が参加させてもらうようになったのは2019年2月の第21回で、これまでに4回(たぶん)参加させてもらいました。
水車小屋とオープンマイクの歴史は、水車小屋店主のともさんがグリーンズに寄せたこちらのインタビュー記事をぜひ。
僕自身は高校生の頃からひとりギターを触ってはきたけれど、誰に教わるでもなく、人に見せるでもない、素人に毛が生えたくらいの弾き手ですが、そんなクオリティでも参加できるくらいの温かい空気がここにはあります。
今回は僕はコロナ禍で初めて買って、正直ほとんど触っていない(笑)ウクレレをデビューさせました。
4つのコードで、シンプルに。楽しかったので、よしです。
かといって、みんながみんなそんな感じなのかというと、とんでもない。
他ではお金を払わないと聴けないような演奏を魅せてくれる演者さんも何組もいらっしゃって、水車小屋オープンマイクの底力に驚きます。
(ここでは全員がなんの肩書きも背負わないフラットな場になっているのでプロなのか、プロじゃないのか、正直全然わからない)
上手いも下手も関係なく、純粋に音楽が好きな人たちが集まって、時間と空間をともにするというただそれだけが、案外難しいよな、と思うのです。
それが自然と形になっているこの場所、この空間の貴重さは、参加した人にだけ分かるものなのかもしれない。


ところで、オープンマイクに来ると、いつも思い出す歌があります。
ビリー・ジョエルの、Piano man。歌い出しはこう。
It`s nine o’clock on a Saturday
The regular crowd shuffles in
There’s an old man sitting next to me
Makin’ love to his tonic and gin
土曜日の夜9時
いつもの奴等がそろそろ集まってくる頃だ
一人の老人が僕の隣りで
ジン・トニックのグラスをしきりと愛撫している
Billy Joel (訳:山本安見)

この曲は僕がオープンマイクに初めて参加した時にギターとブルースハープで弾き語った曲で、その時は特に深く考えていなかったけれど、回を重ねるごとに特別な曲になってきている。
ビリー・ジョエルはこの曲で、ピアノバーに集うひとりひとりの人生を歌う。あるいは、ビリーが奏でるピアノにひとりひとりの人生が乗っかったのがこの歌なのかもしれない。一本の映画作品を見ているような、その映像が眼前にありありと浮かぶようなこの曲に、僕は等身大の人生の焦燥や儚さを見る。肩書きや属性を外したひとりひとりの人生、ただ暮らしを続けていくだけのその行為に、豊かな物語を見る。
オープンマイクに集う人たちは本当に多様で、多世代で。
音楽を通して、あるいは合間の休憩時間や終わった後のだべりの中で、ひとりひとりの人生に思いがけず触れたりする。仕事や家庭と離れたところで、肩書きや属性と離れた等身大の「僕」「私」が音楽を通じて繋がるこの場所が、人生の隙間に与えてくれる豊かさはきっと大きい。